「音楽がある」ことは心を「浄化」します

特別養護老人ホームでのできごと。

 

季節の歌で《案山子》を歌ったあと、もうすぐ美味しいお米がとれますね、ということで、朝ごはんのおかずについて質問しました。

 

「みなさん!朝ごはんのおかず、いろいろありますが、どんなものがありますか?」

白板に太いペンで「朝ごはん」「おかず」と書きます。

すると、2列目の真ん中の席から、ひときわ大きな声で「温泉卵!」と発言する人がいます。

どうやらその日の朝ごはんに温泉卵が出たようなのです。

今朝の朝ごはんのおかずを覚えているなんて、すごいですよね。

認知はあるものの、それほど重くはないということがわかります。

そのかたはOさん、80代前半の女性です。

Oさんは、歌が好きで、いろいろと発言もする、元気な方です。

白板に歌詞摸造紙を貼ると、すぐに歌い出すくらい歌が好き。

いつも明るく音楽を楽しんでいます。

 

その日はたまたま、Oさんの娘さん夫婦が面会に来ていて、音楽療法を後ろの方から見学していました。

Oさんはそのことを知りません。

 

Oさんは、音楽を積極的に楽しみ、音楽療法が終わりました。

職員が車椅子を押して、Oさんを家族のもとへ連れて行きます。

 

そこで私は耳を疑いました。

娘さんが何を話しかけても、Oさんはすべてを否定します。

「音楽楽しかったね」「ぜんぜん楽しくない」

「いっぱい歌ってたじゃない」「歌ってない」

「これからお昼ごはんだね」「お昼ごはんいらない」

「今日は暑いね」「暑くない」

こんな調子です。

ついには他の入居者にまで文句を言い始めます。

テーブルの中央にあるティッシュを取ろうとした人に「何やってんだ」と

 

このようなことは他の入居者でもときどきみられます。

今まで、私の話を聞いて、いろいろな思い出を話したり、笑顔で楽器を鳴らしたり、大きな声で歌ったりしていた人が、音楽の時とは違った一面をみせます。

音楽療法が終わるとわれ先と帰ろうとしますが、後ろの人を押しのけ、無理やり先に帰ろうとする人、動作がゆっくりな人に「早くしなさいよ」と文句を言う人・・・

 

「音楽がある」ということはこんなにも人を正常にするのです。

心の中にある「憤り」「不平不満」「諦め」「嘆き」など負の感情を「浄化」するのです。

 

音楽療法の時の参加者一人一人の様子を書いた記録を職員が読むと、「普段自分たちが見落としていることを気づかせてくれる」「日常とは違った一面を見れる」「新鮮な表情がわかる」「参考になる」などと言われます。

毎日、世話に追われていると、入居者をどの人も同じように扱ってしまうことがあるのかもしれません。

介護は厳しい労働なのです。

 

音楽が毎日あったら、一人ひとりに音楽を処方することができたらどんなにいいでしょう。

これからも「音楽療法」を理解してもらえるように頑張ります!